ー第0章ー エンディングに向かうにあたり
自分で書いておきながら今さら言うのもなんだが、第1章から第16章まで読み進めるのはなかなかの時間の浪費を伴う。自分自身途中で過去と向き合うのがツラくなって、第6章あたりで1年半筆を休めた。第1章を読んだら全部すっ飛ばしてエンディングが気になる人も多いのではないだろうかと思い、第17章は「これまでのあらすじ」とした。自分で書くのは面倒くさいので、ChatGPTクンにあらすじをお願いした。「ノンフィクションのドキュメンタリーだけどエンターテインメント色を強く出して、面白おかしく読めるようにしたい。これを踏まえて、第1章から第16章まで各400~600字くらいで、第3者目線であらすじを書いて」。
ー第1章ー 失踪した妻が記憶喪失になって帰ってきた
2022年2月、ヒデの妻サイコが突然「フッ…」と消えた。蒸発? 駆け落ち? いやいや、そんな昼ドラ展開じゃない。行方不明になった妻サイコは、なんと4ヵ月半後に“記憶喪失ヒロイン”として帰還したのである。舞台を整えたのは、サイコの職場の店長・グミ子と、その姉で占い師のスピ子。二人は「ヒデは海外に行っていたことにする」という斬新すぎる設定を持ち出し、再会は制限時間1時間、まるで密室ゲームのように仕切る。
現れた妻サイコは、以前の姿とは別人。ハイテンションなおバカキャラを演じ、4年前の白川郷の思い出だけを胸に、そこから時間が止まっている。2歳の息子みーとくんの写真を見ても、「かわいいね」で終了。母性スイッチは完全にオフ。血縁を認識しない母親と、ツッコミ待ちのように突っ立つパパ・ヒデ。この異様な再会シーンは、涙よりも笑いと困惑で包まれる。

「サイコの面倒は私たちで見るから」と壁をつくるスピ子&グミ子姉妹に囲まれ、ヒデの出番はあっという間に終了した。置いてけぼりを食らったヒデは、唯一の武器=デジタルの記録を握りしめ、「よし、これで真実をつなぎ直すしかない」と決意する。まさに、愛と記憶をめぐる“ノンフィクション喜劇”の幕開けであった。
ー第2章ー 出会いは占い
2009年、ヒデはFMラジオ局で占い師を集めた番組を担当していた。マスク姿の怪しい占い師、LGBTQキャラを装う占い師など、個性の洪水に飲まれる現場。その中で異彩を放ったのが、のちの妻サイコの“運命のキーパーソン”――スピ子である。彼女はただの占い師にあらず。語る言葉に妙なリアリティがあり、相談者に寄り添う柔らかさを持ち、グラマラスなボディと妖艶なオーラを兼ね備えた“占い界のファム・ファタール”だった。ヒデは「占いは適当に軽く信じる派」だったのに、なぜか彼女の言葉だけは胸にズシンと刺さる。
番組が終了しても縁は切れず、他局でスピ子をパーソナリティーとした企画が採用され、そこから10年続く長寿番組へと成長した。占い師スピ子は仕事仲間でありながら、ヒデにとっては“人生を狂わす存在”へと変貌していく。ちょうどその頃、ヒデはFXにどハマり。円高相場に乗って「俺は相場の神だ!」と錯覚し、複数モニターを並べてチャートに張り付く毎日。まるでラスベガスのカジノにいるような高揚感に酔いしれるが、その行き先は破滅一直線。

そこへ占い師スピ子が颯爽と登場して、ひと言。「今の時期はやめたほうがいい」。この助言がなければ、ヒデは自己破産コースまっしぐらだった。まさに“命の占い”。ここで、すべての人は理解する――彼女は単なる占い師ではない、ヒデの人生を操る「運命のディーラー」なのだと。
ー第3章ー そして占い婚
2018年2月2日、ヒデは、占い師スピ子によってマッチングされた“婚活お見合い”に挑むため、南青山のイタリアンレストランでディナーに臨んでいた。
お相手は派遣社員の丸の内OLサイコ。1ヵ月間メールでお互いの心を寄せ合った後の初対面。メールでの感触は良く、送られてきたショートヘアの写メもヒデの好みだった。実際に会ってみての第一印象は「意外とオッパイ大きいな――と本人が覚えているほどの衝撃だったらしい。その場を取り持ったのは、相変わらず頼れる占い師スピ子。食前のお清め代わりに、「ヒデは目力が強すぎるから見つめすぎ注意!3秒以上見つめないこと」とのアドバイス付きだった。

そして!奇跡の交際0日で2月4日には同棲スタート。20箱のダンボールを抱えて赤帽で登場したサイコに、ヒデは部屋を最新家電(TOTO全自動トイレ、リンナイ最新キッチン)で整え、万全の準備。だが初夜は、まさかの「生理で延期」。ほろにがスタートに笑いが止まらない。
さらに占い師スピ子はノリノリで、たこ焼きパーティーやお花見などでヒデとサイコの仲を盛り上げ、グアム旅行ではまさかのサプライズ演出で感動の結婚パーティーを開催。スピ子の助手ズン子と新宿歌舞伎町ホスト社長が思いっきり際どいSMチックな余興を展開するなど、ド派手で楽しい毎日は、このあと加速する一方に思えた。…のだが…。

ー第4章ー コロナ禍で狂い始めたふたりの歯車
2020年1月、臨月のサイコ。見守るヒデ。生まれてくる子どもの幸せを願って、スピ子にはいろいろとお願いをしていた。生年月日から導く占いワード“運命数”で出産を完璧に操ろうと、産院選びから無痛分娩、姓名判断まで、スピ子の“惑星術(仮)”が炸裂。生まれてきた子の出産日は運命数44、太陽と裏土星のコンビ。スピ子の“惑星術(仮)”によれば、生まれてくる男の子はパパ大好きで、2歳過ぎたらママはいらなくなるそうだ。「サイコはいずれ乞食になる」とまでスピ子は言う。いきなり恐怖の予言? でも、赤ちゃん“みーとくん”誕生で迷いなんて吹っ飛ぶ…と思いきや、その直後からどうやら予断は許されない。

新型コロナの猛威で妻サイコは神奈川県にある実家に帰省し、そこから遠距離新婚生活に突入。はじめは毎週末に会えていたものの、3月中旬には「両親がコロナが怖いから東京からは来るな」とまさかの息子と会う禁止令。ビデオ通話で微笑みを交わすだけの関係になる。そんな中、占い師スピ子がサイコへの不満をヒデにぶっ放す。「自己中すぎて泣ける」「人の気持ちわかってない」と毒の嵐炸裂。妻サイコからのメールは、「犬を殺したい」「犬と一緒には住めない」とぶちまける衝撃の告白! 信じられない展開に、犬と人と赤ちゃんをめぐる“愛憎の三角関係”が新章へと突入。ついに占い師の忠告どころじゃない、家族崩壊ギリギリのヒリヒリ新婚生活が描かれていく…。
ー第5章ー YouTube事件
2020年の夏から、稲葉家は奇妙な二重生活に入った。ヒデは渋谷区の持ち家マンション、サイコとみーとくんは台東区の賃貸マンション。理由はコロナ禍による自主隔離、実家依存からの脱却、占い師スピ子の助言、そして突如発症したサイコの“犬嫌い”。この二重生活は、稲葉家に溝と混乱をもたらしていた。
ほどなくして、占い師スピ子が思わぬ一言を口にする。「ミーアでYouTubeやりたいんだけど」。ミーアとは、スピ子の一番弟子である。その名を冠した動画企画、総合プロデュースは当然スピ子。企画構成、撮影、編集、最終チェックまでヒデがひとりでこなすことに。
2020年11月30日、ミーアチャンネルが開設されるやいなや、登録者数はあっという間に1,000人を突破。YouTube収益化の条件の一つを軽々クリアする人気っぷり。ところが順風満帆かと思いきや、2021年3月3日公開の7本目をもって、スピ子から「しばらくやめて」とのまさかの指令が出た。収益化目前のこのタイミングで…。理由は曖昧過ぎ。「ちょっとミーアは出られなくなった」とは…、一体何が起こっているのか!?

そして次の一手として、ヒデが立ち上がる。2021年4月、息子を主役にした「みーとチャンネル」を立ち上げた。愛しのわが子と距離を縮めたい願い、そして週末婚の孤軍奮闘を繋ぐ希望がここに込められていた。しかし思わぬ横やりが入る。YouTubeの「みーとチャンネル」にサイコが出演していることで、サイコの妹バリ子とサイコの親戚からクレームが入り、さらにサイコの前の旦那との間に生まれた長男カールくんが「みーとチャンネル」によって大学で壮絶なイジメに遭っているということで、妻サイコから「NO!」を突き付けられ、占い師スピ子からも「やめなさい」と促されたのだ。

占い師スピ子の理屈は、みーとチャンネルを始めたばかりに、①サイコの長男が大学でイジメに遭った⇒②長男のイジメの原因はサイコの年齢とぶりっ子⇒③長男の元カノからの裏切りでイジメ加速⇒④みーとチャンネルは即刻やめるべき⇒ということである。それにしても、再生回数10回ちょっとの動画を吊るし上げて、こんな理屈は通るものだろうか? スピ子は「このままでは長男カールくんとサイコがかわいそうだから、みーとチャンネルは即刻やめるべき」と主張し、ヒデにみーとチャンネルから手を引かせた。ちなみに大学はコロナ禍でオンライン授業なので通常の入学式もなく友達とは会うことができていない。サイコ(当時39歳)の高齢出産が非難される人権侵害はなぜ? 元カノからの裏切りの根拠はない。理解に苦しむ。
ー第6章ー バカすぎ問題
愛と混乱の中間管理職をこなすヒデ。ヒデは渋谷区、妻サイコと息子みーとくんは台東区の「週末婚・別居婚」生活を継続中。そんな中、登場人物の“相関図”をメールのやりとりから掘り起こし、改めて整理する爆笑カオス回である。
まず、占い師スピ子にとってのヒデは「なんでも頼み放題でATM仕様の親友」である一方、妻サイコにとって“スピ子先生”は絶対的な神的存在。一方でスピ子は「サイコは使えない」と散々ディスりヒデに文句を言う。スピ子の妹グミ子は「サイコさんがいないと仕事が回らない」と擁護するが、サイコは仕事をサボって経費で無駄遣いをする。八方塞がりのヒデは完全板挟み状態。さらにスピ子の完全信者ズン子まで登場。ズン子は元看護師で処方箋薬まで常備してスピ子を支えているが、サイコのことは便所虫としか見ていない。
メールに登場する日々のトラブルの嵐も衝撃。サイコは報告・連絡・相談(ホウレンソウ)がまるでできず、質問には答えず、指示されたことも応えず、自分流の行動に走る始末。「水がないから買ってきて」と言えば20本買ってくるし、鍵はかけ忘れ、メール返信なし…など、便利ツールを与えてもまったく使い切れないレベル。
まさに「愛すべきトラブルメーカー・サイコ伝説」が加速中。第6章は、なぜか愛憎半々で笑える、家庭サバイバルの傑作回となっているのでした。
ー第7章ー アニバーサリー前夜
秋から冬にかけては稲葉家はアニバーサリーラッシュ! サイコの誕生日(10月)、結婚記念日(11月)、ヒデの誕生日(12月)、息子みーとの誕生日(1月)、初対面記念日(2月2日)、同棲記念日(2月4日)に加え、クリスマスやバレンタインまで襲ってくる。幸せイベントのオンパレードに見えるが、ヒデにとっては財布も心も削られる「地雷月間」。3月〜9月の“休戦期”まで持ちこたえられるかが勝負だ。
そこに追い打ちをかけるのが、毎日のように飛んでくる占い師スピ子からの“ダメ出しメール”。HSP+更年期の痺れるコンボで、責められるたびにホットフラッシュ全開&めまいに涙目のヒデ。「嫌ならクビにすればいいのに」とボヤキながら、スピ子という存在を切り捨てられない自分がいる。まさに“呪縛の人間関係”。
そんな中、ヒデの人生にさらに悲劇が襲う。自転車事故による大怪我で脳に障害を負い、味覚と嗅覚を完全に失ってしまったのだ。食の喜びを奪われたヒデをよそに、スピ子はサイコに容赦ない一言を放つ。「ヒデの味覚なくなってよかったじゃん。これからはブタの餌でも食わせとけばいいよ」。まさにブラックユーモア全開、愛情か毒舌か判別不能のパンチライン。スピ子の占いは「よく当たる」と評判だが、不思議なことに4年後の2025年、備蓄米という名のブタの餌を食べるヒデの姿があったのだから、涙がこぼれる。

しかしその残酷ジョークの裏にこそ、この奇妙な関係の“真実”が見える。人生を狂わせ、追い込むのもスピ子だが、最後には必ず導きの役を果たす。甘美と毒をあわせ持つ“運命の女神”は、今日もヒデの人生を翻弄し続けるのだった。
ー第8章ー “あたおか”サイコ
“あたおか”という言葉、芸人・見取り図がネタで使って広まり、「頭がおかしい」の略なのに、マイルドかつ強烈インパクトで2019年のインスタ流行語大賞1位にまで輝いた一言ワードである。
この章ではお笑いエピソードを皮切りに、日常語の裏側に潜む言葉の語源や流行の裏話へと脱線し、ついには「チョメチョメ」や「ニャンニャン」といった昭和から令和までの下ネタ隠語の歴史にも深掘りしていく。その軽妙な展開は「“あたおか”サイコ」――つまり、いつも“頭がおかしい”妻サイコの振る舞いと見事にリンクし、章そのものが“飲み会のツッコミ漫談”のようなノリに。
ただし、軽い笑いの奥底に透けて見えるのはヒデの呆れと諦観。サイコの日常はしばしばヒデのツッコミ耐性を超え、「もうこの人、“あたおか”通り越して、新ジャンルじゃね?」と思わせる狂騒の連続。まさにこの1章、彼女そのもの以上に「“あたおか”って言葉自体が主役だ!」と言わんばかりの爆裂エンタメ&爆笑展開で突き進んでいくのである。
そして、忘れてはならないのが占い師スピ子。彼女は勝手に「稲葉家ルール」を作り、ヒデが絶対に口にしたくない“禁断ワード”――「離婚」を、ヒデからサイコに言わせようとするのだ。果たしてヒデは耐えられるのか?
ー第9章ー 遂にスーパーサイコパス発動か
2021年9月、稲葉家に再び嵐の気配。妻サイコの誕生日を目前に控え、ヒデの胸の内は「誕生日サプライズの楽しみ」より「家族崩壊の予感」でざわついていた。サイコと前の旦那との間に生まれた長男カールくんと仕組んだバースデーサプライズお祝い大作戦の下準備は完璧のはずだった――高級焼肉店の個室を予約し、“大学いじめ”の誤解を解消する証言まで仕込み、家族和解の舞台は整っていた。
しかし、そのシナリオを唯一知るスピ子が、まさかのポカなのか、本気で邪魔をする気なのか、サイコ本人に情報をリークしてしまう。まるで時限爆弾を自ら爆発させたような“スピ子劇場”。当然、サプライズは一瞬でパァに。ヒデは天を仰ぎ「スピ子、頼むから黙っててくれよ!」と絶叫したい心境だ。焼肉計画は水泡に帰し、お膳立ては台無し。幸いキャンセル料はゼロで済んだが、精神的ダメージは甚大だった。
だが事件はそれで終わらない。誕生日当日、妻サイコは突如“自殺未遂騒動”を起こし、ヒデを絶望のどん底へと突き落とす。お祝いの日が一転、救急劇の様相を呈し、ヒデは「これもうサプライズどころかホラーだろ」と頭を抱えるしかない。愛と不安が交錯し、家庭は完全に緊張の糸を失った。
結局、この章は「占い師スピ子の確信犯的暴走」と「サイコの破滅的行動」が二重奏を奏で、稲葉家を混乱の渦へと叩き込む“スーパーサイコパス発動編”。笑いよりも背筋が寒くなるほどのカオス劇で幕を閉じるのだった。
ー第10章ー 悪夢の結婚記念日
2020年の夏から、ヒデは渋谷区の持ち家マンション、妻サイコと息子みーとくんは台東区の賃貸マンションで暮らしている。この二重生活は、静かに、稲葉家に、溝と混乱をもたらしていく。
2021年10月30日。結婚記念日を前に幸せをかみしめて過ごしたいヒデの願いを、突然かき乱したのは妻サイコの妹バリ子だった。台東区のマンションに、神奈川県からアポなし常識なしで襲来したバリ子は、「旦那と喧嘩して離婚しそうだ」とサイコに相談しに来たらしい。姉を頼る妹を装いながら、なぜ姉の結婚記念日を狙って来訪するのか? サイコは、ヒデとの記念日を迎える喜びよりも、バリ子が発する空気に支配されていた。そのバリ子の手腕はまるで悪の黒幕。ヒデは「これはただの訪問じゃない、家庭を揺さぶる宣戦布告だ」と直感する。
翌日には結婚記念日ランチを控えていたが、その前夜に仕掛けられたバリ子の“乱入劇”で雰囲気は最悪。サイコの気持ちは妹の影響で揺らぎ、ヒデは孤立無援。焼肉ランチを心から祝うどころか、「この先もバリ子が家庭に入り込んできたら…」という不安が現実味を帯びていく。結局、記念日ランチ自体はなんとか実行されたが、その幸せの背後に漂うのは、バリ子の不吉な残り香…。「次はもっと大きな混乱を運んでやる」と言わんばかりに、バリ子は結婚記念日当日にも、台東区のマンションにやって来たのである。
第10章――それは“悪夢の結婚記念日”であると同時に、稲葉家に黒幕バリ子が本格参戦する序章だったのだ。
ー第11章ー みーとくん身代金事件
2021年11月、稲葉家はもはや家庭というより“サスペンス劇場”。ことの発端は、妻サイコが息子みーとくんを突然連れ去ったことだった。ヒデの元に届いたのは驚愕の要求――「みーとを返してほしければ、身代金を払え。そしてこれからの毎月の収入もすべて差し出せ」。愛する我が子が人質となり、妻が脅迫者に変わった瞬間である。
背後には、やはりあの存在が見え隠れする。そう、台東区のマンションに入り込み、家族のバランスを徹底的に壊してきた黒幕・バリ子だ。直接口を開かずとも、その悪意は明らかに透けて見える。「サイコにシングルマザーをやらせ、ヒデを金づるにする」――そんな不気味なシナリオが着々と進行しているようだった。
ヒデは追い詰められた末に、ついに決断する。サイコに要求された100万円を振り込む“屈辱の契約”に応じたのだ。父親として、夫としてのプライドはズタズタ。それでも「みーとくんを守りたい」という一心が、ヒデを膝まずかせた。

この“身代金事件”は、もはや家庭内トラブルの域を超えている。妻サイコは実行犯。そして、背後で糸を引くのは黒幕バリ子。ヒデは金を搾り取られる“ATM人質”と化し、稲葉家の歯車はさらに狂気じみた方向へと回り始めていく。
ー第12章ー 地獄を楽しむ?
2021年11月、未曾有の「みーとくん身代金事件」の泥沼を経て、ヒデの生活は完全に“地獄ゾーン”に入った。100万円を振り込んでから、息子みーとくんの写真や動画が毎日届くようになったものの、実際に会えるのはまだ先。ほんのささやかな前進だが、それすら複雑な心境を招く。
そんな中、占い師スピ子から投げかけられた“哲学的”助言が胸に刺さる。
“裏に入るから仕方ない時期。自我をなくし地獄を楽しみミートを救うか、離婚で自由か、2択だけだから”
己を見失いつつ、“地獄”のような現実をどう受け止めるか…。占い師スピ子の言葉は、もはやエンターテインメントではなく、正気と狂気の境界線を揺るがす選択を突きつける。愛か自由か。あるいは崩壊か救済か。ヒデは“地獄”を肯定するしかなく、家族を取り戻すために、狂気の選択を強いられるのだった。
ー第13章ー リフォーム大作戦
2022年1月1日、元旦のこと。妻サイコは「スピ子先生の福袋初売りだよ」と言い残し、上野アメ横にある占い師スピ子の妹グミ子の店舗へ仕事で出かけて行った。残されたヒデと息子みーとくんは、渋谷区のマンションで“静かなお正月”を迎えるはずだった。
ところがその夜、サイコからのLINEはまるで狂気のお年玉要求祭り。「年明けハッピー」「カバンはミュウミウかプラダで」「温泉行くよ」「旅行後は銀座でランチ」「婚約指輪なくしたからハリー・ウィストン見に行こう」などと物欲の洪水。しかも、すでに靴もバッグも贈ったのに、彼女の物欲は留まることを知らない。さらに婚約指輪の紛失には一言の謝罪もなし。ヒデの心は「元日からふり回されて、今年も地獄か…」と崩壊寸前。
翌日からは“お年玉リスト”がLINEで送られてきた。生活費12万円送金、禁酒宣言、犬の殺処分を最優先課題に、台東区のマンションは7月まで絶対解約不可、記念日ディナー要求、自分への愛の誓い…、そして最後には「ヒデが死んだら渋谷区のマンションは全部私のもの」宣言まで。狂気のリストが怒涛のように並び、ヒデはただただ「これは…オレに課された使命なのか?」と途方に暮れる。
さらにリフォーム直前の渋谷区のマンションは、空き巣に荒らされ、家族カードはサイコに乱用された。
この1月下旬から3月中旬まで、渋谷区のマンションをリフォームする。家族3人とチワワ2匹が共存できるはずの“リフォーム大作戦”は、犬を隔離するための家改造よりも、むしろ家族関係のリフォーム(修復)を著しく阻む「狂気の指令集」と化していたのである。
ー第14章ー アパ生活
2022年1月28日(金)、ヒデの“アパ生活”が始まった。きっかけは渋谷区のマンションをリフォームするための一時避難。もともとは台東区のマンションでサイコ&みーとくんと同居する計画だったが、サイコがまさかの断固拒否。「絶対に来ないで!」と突き放され、ヒデは仕方なく近所のアパホテルで一人暮らしを余儀なくされたのだ。
荷物はスーツケースとデスクトップPCのみ。テレビをモニター代わりに作業するも効率は最悪で、結局は放送局に通って仕事をこなす羽目に。衣類も靴下3足・Tシャツ数枚・薄手のダウン1着と、まるでバックパッカーのような生活スタイルに。だが更年期の“暑がり体質”のおかげで、服が少なくてもなんとかなるという皮肉な快適さを手に入れる。
ところが心の平穏はゼロ。サイコからは毎日のように支離滅裂なLINEが飛び込んでくる。「お金を払え」「愛がない」「存在が邪魔」…矛盾だらけの糾弾メッセージに、ヒデはスマホを見ては頭を抱える日々。まるで精神的リンチを受けているかのようなアパ生活は、孤独と恐怖の二重苦だった。これはもはや結婚生活ではなく、完全にホラー展開。アパホテルの白い壁に囲まれながら、ヒデは「ここは避難所なのか、それとも収容所なのか」と自問せざるを得なかった。
ー第15章ー Majiで失踪する5秒前
2022年2月7日、ついにアパホテルでの10泊11日生活を終え、ヒデは台東区のマンションでサイコ&みーとくんとの再合流を試みる。しかし、玄関を開けた先に待ち受けていたのは“張り紙付きリビング扉”という異様な光景だった。「リビングに入るな」「会話はメール」「みーとの世話はヒデ」といった「サイコルール」が降臨した。リビング立ち入り禁止でキッチン生活を強制されるヒデは、寝袋とエアマットで“床上シェルター工作”を開始。「生活基地感すごいけど、これはもうホームレス生活か?」とツッコミを入れたくなるほどのサバイバル体制に突入する。

それを知ってか知らずか、占い師スピ子からヒデに命令が下る。「サイコのレコーダーに録画されている番組を今すぐ私のスマホに送って」という無茶な要求。リビングに入れない今の状況を必死に訴えるヒデだが、スピ子には関係ない。スピ子は赤坂のテレビ局のスタッフがいかに使えないバカなのかを訴えて、ヒデに無茶な要求を続ける。

占い師スピ子が発する罵詈雑言にはヒデは慣れている。ヒデに向かって妻サイコをディスりまくるのだから、普通の神経ではない。スピ子は自分の身内のことも自分の番組スタッフのことも、容赦なく中傷してくる。「あいつはバカだ」「あいつは口が臭い」といちいちヒデに報告してくる。占いでその人の本質を見抜いているから、余計腹立たしいのだろう。ヒデはその話を楽しそうに聞いて同調するし絶対に口外はしないので、ストレス発散にはきっとうってつけなのだ。だからヒデは、顔も知らないスタッフの“使えない情報”だけ知っている。
その日からヒデの妻サイコは姿を消した。失踪…。行方不明…。
第15章は、まさに“家庭崩壊シム”のアップデート版。これはバグだらけの家庭版シミュレーションゲームなのか。サイコの狂気ルールとヒデの強制DIY基地化が合体した、狂演技と混乱劇の新たな頂点であった。
ー第16章ー 失踪した妻の潜伏先は?
2022年2月9日、妻サイコはひょっこり姿を消したまま戻ってこない。どうせ神奈川の実家に“帰省中”だろう…というみんなの油断を乗せて、彼女は密かに“セレブ逃避行”を続けていた。私は「警察に行こう」と占い師スピ子に相談するも、返ってきたのは「私の会社が調べられるからダメ」「弁護士も NG!」という、まさかの“捜索封じ”。一方私とみーとくんには週に数回、スピ子からの差し入れという“救援物資”だけが届く日々だった。
ところがある日、マンション前を歩いていたみーとくんと私は、見慣れた姿を発見する。妻サイコだ。「ママだ!」と叫ぶ息子に応えることさえせず、サイコはそそくさと自転車で去っていった。サイコは台東区に潜んでいたのだ。
その後、占い師スピ子とその側近ズン子の情報網を通じて、サイコが高級ホテルに出入りしているとの“VIP級目撃情報”が続々と集まる。どうやら「ランチに1万円、ディナーに1万円」という豪遊ぶり。計算してみれば、このあいだ振り込んだ100万円は1ヵ月で蒸発する勢いだ。算数力も家計管理も完全にゾッとするレベル。サイコのエンゲル係数は、もはや狂気の数値としか言いようがない。
まさしくこの第16章は、“家庭崩壊シリーズ”の最終局面。妻は消えたまま、豪遊モードで台東区に潜伏中。追いかける気力はヒデにはない。が遂に、占い師スピ子と妹グミ子がサイコの潜伏先を突き止め、ヒデとの面談をセッティングする。しかしその先に待ち受けていたのは、記憶喪失になった妻サイコの姿だった。
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